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SPECIAL ケーキ王子の名推理 七月隆文/著 高野苺/イラスト

  • あらすじ


    「おい」
    声がずしりと、重くなった。
    接客の態度が消え失せ、据わった日で未羽を睨みつけてくる。
    未羽は思わず後じさった。
    王子が逃すまいとするように前に出てくる。
    背中に固いものがぶつかった。
    壁に追いつめられた。
    「......、......」
    視界ぜんぶが彼にふさがれている。広い肩が照明を遮り、影になっている。
    ずっと上からこちらを威圧的に見下ろす――息を飲むほど綺麗なまなざし。
    未羽はパニックになりつつ、
    ――か、壁ドン!? 壁ドンくる!?
    そんなことを連想する。
    彼は動かない。
    ――こない!!
    「お前、池上高校の生徒か?」
    「......は、はい」
    「絶対に言うなよ」
    「ヘ?」
    「俺がここで働いてること、誰にも言うな。絶対に」
    ......なんで? と未羽は思った。
    「えっと......なんで」
    言い終える前に彼の右腕が頬をかすめ――後ろの壁にバンッ! と手のひらがつく音がした。
    ――きた―――――っっ!!
    「絶対言うな。わかったな」
    凍えるほど冷たい表情で言う。
    未羽は怯えた小動物の必死さで、こくこくっ! とうなずいた。

    (1巻「ショートケーキ」より)

  • 物語

    ケーキ王子の名推理
    夢も恋も甘くない。お菓子こそ、正義。

    バカがつくほどケーキが大好きな女子高生・未羽(みう)。失恋のかなしみを癒すため訪れた自由が丘のケーキ屋で、パティシエ修行をしている学校一のイケメン王子、颯人(はやと)に遭遇。これは早くも新しい恋の予感? いやいや現実はケーキほどには甘くない。彼は噂に違わず超冷たい。が、夢への想いは超熱い。他人の恋やトラブルもお菓子の知識で鮮やか解決。ケーキを愛する二人の青春スペシャリテ。

    ケーキ王子の名推理2
    涙の数だけケーキを食べよう。

    ケーキを愛する女子高生・未羽は、世界一のパティシエである青山から店のケーキバイキングに招待された。夢の時間が始まったそのとき、外国人の美女が乱入。彼女は青山とただならぬ因縁があるらしく――!? 未羽の新しい友達、颯人のリベンジをかけたコンクール、そして青山の秘められた過去が明らかに。恋も悩みも、お菓子の知識で鮮やか解決。未羽と颯人の青春スペシャリテ2弾。

  • 登場人物

    • 有村未羽ありむらみう

      ケーキ大好き女子高生。せっかくできた彼氏の前で、スイーツのことになると超絶ムキになる癖を発動してしまい、2度目のデートで振られる。その直後、たまたま訪れたケーキ屋さんでパティシエ姿の同級生・最上颯人と遭遇。「ここで働いてることは絶対誰にも言うな!」と口止めされる。

    • 最上颯人もがみはやと

      未羽と同じ高校の人気No.1イケメン。ただし女子に冷たく、あだ名は「冷酷王子」。実は世界一のパティシエを目指している。師匠と仰ぐパティシエがオーナーを務める「Mon Seul Gateau(モンスールガトー)で修行中。

    • 青山大あおやままさる

      颯人がバイトするケーキ屋さんのオーナーで、世界一のパティシエ。大人で包容力があり、ちょっぴりミステリアス。ドSな颯人に傷つく未羽を、いつも優しく励ましてくれる。

  • 著者紹介

    七月隆文ナナツキ・タカフミ

    大阪生れ。ライトノベル、一般文芸などジャンルを超えて幅広く活躍。著書に『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』『君にさよならを言わない』『ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)』『天使は奇跡を希う』などがある。